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王様はいばりんぼうで、自分ではフォークも持たないと評判でした。家来も手を焼いていましたが、文句を言う勇気のある者はいませんでした。 実は、この国は王様のふるさとではありません。やっと歩けるかどうかの赤ちゃんのころ、よその国からもらわれてきたのでした。おとなになった王様は、弱そうな国があると容赦なく戦をしかけて自分のものにしていったので、この国はあっという間に大きくなり、お城の壁は世界じゅうから集めた宝石でいっぱいになりました。それでも、王様が安心して眠れる日は一日もありません。狐狩り競争で、北の国の王様が子狐一匹分多くしとめたと聞いてはくやしがり、東の国で今までより二倍も遠くまで飛ぶ槍が発明されたと知ってはいらいらしました。こんな具合で、王様の頭の中には、洋服のボタンのかけ方や、フォークの使い方なんて覚えておく場所はなかったのです。 さて、ある日お風呂係の家来が、王様のおへそがひどく汚いのに気がつきました。それもそのはず。王様は生まれてから一度もおへその掃除をしたことがなかったのです。家来がほじくると、出るわ出るわ、スープ皿がいっぱいになるほどのゴマが採れて、おしまいに、おくからコロン、とアーモンドの種のようなものが出てきました。王様は、おなかに穴が明いたような変な気持ちになって、それをもう一度おへそに押しこんで寝てしまいました。 次の朝王様が目を覚ますと、お風呂でふやけたせいか、おへそに戻しておいた種が緑色の芽を出していました。おどろいた王様は一日そわそわしていましたが、夜部屋を抜け出して、自分で庭のすみに植えかえてやることにしました。恥ずかしいので、こればっかりは家来に頼む気になれなかったからです。 王様は、この芽が大きくなるとどうなるのか確かめてみたくなりました。そして、とりあえず「へその木」と名づけて、毎晩水をやり始めたのです。王様が自分で世話をするなんて、こけんにかかわると思いましたが、びろうどのような葉に顔を近づけると、澄んだ甘いにおいがします。小さな木を見ているときだけ、王様はなぜか安心して他の国のことも気にならなくなるのでした。 木は王様の背と同じくらいに大きくなり、やがてうす桃色の花が咲きました。お城の庭はとても広いので、まだ誰も気づく者はありません。王様が花をのぞきこむと、花びらもうつむいて王様を見ているような気がしました。この花に夜しかあえないのが王様は残念でなりません。しかし、朝はお城のあいさつの準備をしたり、馬車いっぱいの手紙にサインをしたりで大忙しです。そんな時に水をくれ、なんて言ったら家来が怪しんでついて来るに違いありません。仕方なく王様は、お風呂に入ったときの水をこっそり木に分けてやるだけでがまんしました。 とうとう木は実をつけました。月のある晩は、遠くからでもちらちら光って王様を迎えました。夜露のひとつひとつに、王様の顔がくるくる回って小さく映っていました。その楽しそうな顔にくらべると、毎朝ひげを整えてもらうときに自分がずいぶん恐い顔をしているように思えるのでした。王様は、自分で木の実を採って食べたことなどありませんでしたが、この実はいままで食べたどんな果物よりおいしそうに見えました。部屋に戻ってからも、熟した実をひとりで食べることを考えてはわくわくしたのです。 ところが、外国からおみえになるえらい将軍をもてなすため、久しぶりにお城の庭を手入れすることになりました。国いちばんの庭師がよばれました。家来を引き連れた王様は、無理に落ち着いて庭師の仕事ぶりを見て回りましたが、庭の端で足が止まりました。へその木が根本からばっさり切り倒されていたのです。 「鳥か何かが種を運んできたのでしょう。まわりの木とまるで不つり合いでしたから」 庭師があらたまって答えました。 朝の光の下で、木は思ったより小さくてみすぼらしく見えました。王様は木を抱いておんおん泣きました。王様の涙を初めてみた家来はみんな、どうして良いか分からずあわてています。王様はそれにかまわず、熟しかけた実をかじって、べそをかきながらうなづきました。 「そうだ。これは懐かしい母さんの味なのだ。この木だけが覚えていてくれたのだ」 食べ終わると、へそから出てきたのと同じ形の種が残りました。王様はその種を大事にかくしにしまうと、もう王様をやめて旅に出ると言いました。せめて将軍が帰られるまでは、と大臣がたしなめましたがむだでした。 「お前たちは私がいなくてもやっていける。そして、どんな木もみだりに切ってはならん」 これが王様最後の命令でした。 季節が過ぎて、人々はこの王様のことを忘れてしまいました。ただ、いくつも山を越えたところに変わった果物を育てている男がいたという話を、旅人から聞くことがあって、しばらくは何か忘れ物を思い出したような気になるだけでした。その男は、木のそばに小屋を造って片時も離れず、また、実を売ってくれと言ってもどうしても売らなかったということです。 |