物語
アジア各地の民話や神話からエッセンスを取り出し、創作されたもの(らしい)です。



プロローグ

物語はこの世が生まれてまだ間もない太古の時代。
空には太陽が、星が、そして月が輝き、地にはあらゆる生き物たちが生命の息吹をあげていました。舞台は地上の生あるものたちと、水、風、大地の3精霊の「生命の踊り」によって幕をあけます。


第1幕

ここは幸せの島。ジャスミンが咲き乱れ、実り豊かな大地に恵まれ、村人達は平和な日々の生活に満足しています。優しく気高い長が村を治め、ここには争いも諍いもありません。

一方海を隔てた大陸では、再び新たな戦乱の兆しが見られます。その中心はジュナという一人の若者。彼は自らの力によって富と権力を得、この世の王になろうとしています。

ある月の夜、天女が3人、空より地上に降り立ち、黄金で織られた羽衣を脱いで楽しそうに水浴をしています。偶然その場を目撃したジュナは、衣の美しさに心奪われ、天女の隙をついて衣を盗み、その場を立ち去ります。
天女たちは水浴を終えて天に戻ろうとしますが、羽衣を奪われた天女だけは天に還ることができません。仲間の天女たちが去っていく中、彼女は「今自分は身籠もっている。この地上で我が子に何をしてやれよう。」と嘆き悲しみます。
そして、天女は一人の娘を産み、彼女を「アユウ」と名付け、そのまま消えてしまいます。

天女の産み落とした娘、アユウは、太古よりこの地に根ざすヤシの精によって抱き上げられ、その後、彼らに守られて成長することになります。


幾年かが過ぎ、ジュナは近隣ではその名を知らぬ者がいない程の乱暴者になっていました。彼には多くの家来が付き従い、彼らは次々と村を襲い、多くの人々の命と、黄金や財宝を奪ってきました。

戦に明け暮れる日々を過ごす若者は、ある夜、大きなヤシの木の元で眠りにつきます。が、眠りにつこうとしたその時に、ヤシから目映い光が漏れてくるではありませんか。興味をひかれたジュナは、早速ヤシに斬りかかります。すると、突然ヤシの精が現れてジュナを諫めます。「聖なるヤシを斬るなかれ、必ず災いが降りかかるであろう」と。それにもかまわずジュナがヤシを斬ると、中から眩しい光に包まれて、黄金の衣を身につけた世にも美しい娘が現れます。

娘の美しさに心奪われたジュナは彼女を「神が与えてくれた娘」と呼び、また彼女のまとう黄金の衣の美しさにも感心し、彼女を家に連れ帰ろうと手をとります。そこには「アユウ」という名が刻まれていました。
アユウを無理に連れ去ろうとすると、またもやヤシの精が現れ、ジュナからアユウを取り戻そうと襲いかかってきます。ジュナはヤシの精を尽く斬り伏せ、アユウを我が家に連れ帰ります



天上では、夜を司る月の女神が、地上の戦乱に心を痛めていました。
女神はジュナの分身、つまり彼の心から追い出されてしまった「良心」に、ジュナに真実の心の尊さを教えよ、と命じます。また、分身からアユウが日夜惨い扱いを受けていると聞き、彼女の境遇を案じますが、たとえ月の娘でも他の星で生まれた者は月には戻れない掟。
女神は、しかし、たった一つだけ娘が月に戻れる道があることを思い出し、その条件を皆に告げます。娘を心から愛する人が現れた時に、娘は月に還れるのだと...。


ジュナは自分に心を開かないアユウに苛立ち、彼女に辛くあたってしまいます。そこへ、女神からの命を受けた分身が現れ、ジュナを諫めようとしますが、ジュナは、分身のような弱い心が自分の中にいたと思うとゾッとすると言い、耳を貸しません。怯えるアユウに「俺が恐いのか!」と激昂するジュナは、アユウに殴りかかろうとします。それを止めようとした分身は思わずジュナの肩にしがみつきます。その時、ジュナの左肩が露わになり、そこには大きな黒い痣が。一瞬息を呑む2人に、ジュナはこれは自分が赤子の時からついていたものだと言い放ち、2人を追い払ってしまいます。

その夜。疲れ果てて眠ったジュナの夢に、3人の月の精を従えた月の女神が、魔女の姿を取って現れます。女神はジュナにこれ以上娘を苦しめるのならば、恐ろしい運命が待っている、と呪いをかけます。そして、決して白い鳥の羽を焼くな、その煙が娘を苦しめる、と言い残して立ち去ります。


翌朝、ジュナは昨夜の悪夢のことなど忘れ戦に出ようとします。その時、アユウが彼に自分の黄金の衣を渡します。その衣を纏い戦に出たジュナですが、衣がどんな武器も通さないことに驚きます。衣を纏ってからのジュナ達は連戦連勝、大陸の村を平らげ、残すは海の向こうの幸せの島に攻め入るのみ。

幸せの島では、長とその妻が海向こうの惨状に動揺を隠し切れません。長の妻は、こんな時に昔盗賊に奪われた息子がいてくれたなら...と嘆きます。長は妻に、どんな乱暴者でも悪魔や魔物ではないのだから、話せばわかるだろうと諭します。



月の女神は、分身がジュナを止められなかったことを責め、ジュナがこれから戦勝の宴を開くと聞き、多くの人を殺めておきながらそれを祝うジュナの行為に怒ります。そしてこのままではアユウが可哀想だと判断し、分身と3人の月の精に、アユウをジュナの元から連れ戻すように命じます。


地上ではジュナ達が戦勝の宴を開いています。各地から貢ぎ物が届き、「我らの長に栄えあれ!」と皆が浮かれ騒ぐ中、月の精たちがこっそりと宴に紛れ込みます。
宴が最高潮に達した頃、ジュナはアユウに何か歌うように命じ、アユウは「月の夜、優しく聞こえるは母の子守歌」と情感をこめて歌います。その歌に心動かされたジュナは、自分も母の子守歌を聴いたことがないとアユウに告げます。

そこに幸せの村の長と妻がやってきます。もう殺し合いは止めよ、話し合えばわかると言う長に対し、ジュナは、攻められるのが恐くなったのだろう、と取り合いません。あげくの果てに、せっかくだからお前達も何か演れ、と命令する始末。家来にも野次られ、長はある伝説について語りはじめます。

この世で一番高い山。遙か遠い海の向こうにあるその「勇者の山」では、強い意志と力をそなえた者だけが、試練を乗り越え、山に巣くう魔女、魔王の攻撃を退け、山の頂上に立つことが出来るだろう。そしてその者が山の頂で黄金の雨を降らせ、全ての人々が幸せに暮らせる国を作り上げるだろう。

ジュナは長の話に興味を持ち、自分もその山に登り、黄金の雨を降らせてみたいと考えます。
皆が話に夢中になっている隙に、月の精とジュナの分身がアユウを連れ去ろうとしますが、家来に見つかってしまいます。ジュナは分身の行動に怒り、彼を一刀の元に斬り殺してしまいます。


突然周囲から光が消え、ヤシの精が現れ、ジュナと家来達に襲いかかります。油断していたジュナ達は応戦することも適いません。家来達は散り散りに逃げ去り、重傷を負って倒れたジュナに、一人だけ、彼の元に残ったアユウが手を差し伸べます。


第2幕

3人の月の精は、アユウを救うために命を落とした分身を蘇らせてほしいと女神に頼みます。女神は、太陽の神、星の神、宇宙の神に祈り、分身に再び命を与えます。そして、今度こそジュナに美しい心、良い心を教えるよう命じます。


家来を失ったジュナは、今は一人、アユウと暮らしています。アユウはジュナに、あなたは優しいと告げ、ジュナは今まで感じたことのない「愛しさ」「優しい思い」に戸惑います。

そこへ、遠くから元の家来たちの「勝利だ!」という歓声が聞こえてきます。ジュナは迷いますが、再び戦いに赴こうとします。しかしそこに分身があらわれ、ジュナに戦ってはならない、戦は悲しみを生むだけだからと訴えます。
ジュナは分身の言葉を嘲笑い、今まで自分がどれだけ悲しい思いをしてきたかを告げます。誰も自分を救ってくれなかった、だから自分は力を、権力を、富を求めたのだと。それでも分身はひるまずに、アユウも悲しい思いをしてきている、ジュナなら彼女の悲しさが分かってやれる筈だと言います。

分身に続き、アユウも語ります。あなたの悲しみを知らなかった自分を許して欲しいと。そして、ひとりぼっちで辛い思いをしていたのは私も同じ、あなたと私は同じなのだと。
そこへ月の女神の声が聞こえてきます。ジュナ、お前はこの戦乱の中、たった一人で強く生きてきたのだ、今こそ己の姿に目を向けよと。


アユウと分身に心を開いたかに見えたジュナ。しかし、そこにジュナの家来がやって来て、幸せの島を共に攻めるようジュナを誘います。家来から「世界を支配し、黄金を手にすることがジュナ様の夢」と言われ、ジュナはアユウ、分身、そして月の女神の制止を振り切り、幸せの島を征服するために旅立ちます。



ジュナの襲撃を知り、長は住人を希望の島へ避難させます。

そこへジュナ達が攻め込んで来ます。ジュナは家来達に村を破壊するように命じ、一人、村の長と対決します。

長は言います。自分は若い頃から戦乱の惨さをいやという程見てきた。死んでいった者達は、生き残っている者に「自分の分まで幸せになってくれ」と言って亡くなった。だから自分はこの幸せの村を作ったのだと。小さくても争いのない、皆が幸せに暮らせる村を、と。

ジュナはせせら笑い、自分はこの世を支配して、富と黄金に囲まれて暮らすのだと言ってききません。長が、そのような愚かなことで争いを続けるのは止めよと言い、他人の話に耳を傾けよと諭します。そしてジュナに向かい、「お前は立派な若者だ、気高き勇気を持つ者だ。慈しみの心、尊い心を持っている」と言います。

ジュナは動揺します。自分はそんな者ではない、お前の話など聞きたくない、と抗います。しかし長は、お前が私に代わって幸せの国を作ってくれ、お前にならば出来る筈だ、と語り続けます。

心の中はひどく動揺しながらも、何を言っても同じ事、とジュナは言い放ちます。そこへ長の妻が、村人は皆避難したが、聖なる白い鳥がまだ小屋にいると告げに来ます。聖なる白い鳥は神の使い、早く逃がさねば、と長は言い、去り際にもう一度ジュナに「お前は気高い若者なのだ」と呼びかけます。

ジュナは動揺を振り払うごとく、長に斬りかかります。その時、長の妻が夫をかばい、ジュナの剣の犠牲になります。長は驚きと悲しみのあまりジュナに掴みかかります。そしてジュナの左肩に、大きな痣があるのを見てはっとなります。
「その痣...。」長が呟きます。ジュナは激昂し、「お前もこの痣を笑うのか!!」と長を斬り殺してしまいます。「お前は...私の...」と言い残し、長は息を引き取ります。


そこに家来達の「白い鳥の小屋に火がついた!」という声が響きます。家来達が略奪を終えたのを確認したジュナは、村を後にしようとしますが、そこに、何故かひどく苦しそうな様子のアユウが現れます。

アユウに対し、俺はこの世で最も強い男になった、と自慢げに語るジュナ。しかしその元でアユウは苦しみ続け、とうとう息を引き取ってしまいます。何が起こったのだ、と愕然となるジュナに、分身が叫びます。「あなたは夢の中での魔女の忠告を忘れたのか!白い鳥に手を出すなとあれほど言われたではないか!白い鳥を殺したために、あなたのせいでアユウは死んだのだ!」と。



そんな馬鹿な...と呆然とするジュナの元に、月の女神が現れます。「お前は今まで多くの人の命を奪った。そして今、本当の父母の命をも奪ってしまった。」ジュナは嘘だと叫びますが、肩にある痣が証拠と言われハッとなります。続けて女神は言います。「昔お前は天女の衣を盗んだ。そのため天女は月に還れず地上で子を産んだ、それがアユウ。アユウは酷い仕打ちをうけながら、心からお前を慕っていたのだ...」


「お前は一人ではなかった。お前を愛する者はこの世に多くいた。それなのにお前は...」
月の女神の言葉に打ちのめされ後悔したジュナは、女神に、この者達を蘇らせることはできないのか、と訊ねます。女神はそれは出来ないと答え、そして、ジュナに問います。お前はアユウを愛していたのか、と。

ジュナは今までのアユウとの暮らしを思い出します。どんなに辛く当たっても、いつも側にいてくれた。何も求めず、純真な心で自分を慰めてくれた。言葉には出さなかったが、本当に自分を愛してくれた。アユウ。そう、ジュナはやっと気づいたのです。自分がアユウを愛していたことに。

女神はジュナに、勇者の山に登るよう命じます。その頂に登れるのは不屈の精神と人を愛する心を持った勇者のみ、今のお前にならば出来る筈だと。ジュナはそれに応え、勇者の山の頂で黄金の雨を降らせ、愛する両親が作ったような、幸せの国を作ろうと決意します。


とうとうジュナと分身が一つになる時が来ました。良心を得たジュナは勇者の山に向かい旅立ちます。死んでいった両親、アユウの声が聞こえてきます。恐れるな、くじけるな、お前にならば出来る。疲れた時には空を見上げよ、そこにはお前を愛した者達の微笑みが見えるだろう。全てはお前の心の中にあるのだから...。進め、勇気ある者よ...。



ジュナは自分が旅立ちの準備を何もしていないことに困惑します。勇者の山に行くための船、水、傘。今の彼には何もありません。

そこにヤシの精が現れます。ジュナの窮状を聞くと、ヤシの精は、自分たちを切れ、と言います。ヤシの幹で船を造り、ヤシの実で喉を潤し、ヤシの葉を傘にせよと。
今のジュナには神聖なヤシの木は切れません。しかし、そんなジュナだからこそ、ヤシの精達は「今のお前にならば喜んで切られよう」と言います。ジュナはヤシの精に感謝し、ヤシの木で船を造り、勇者の山のある島へ船出します。


勇者の山で待つ数々の試練。途中、傷ついた身体で横たわるジュナに、3人の美女が彼を誘惑しようとやってきます。ジュナはぼろぼろになりながらも、彼女らを意志の力で退けます。

次にジュナの前に現れたのは恐ろしい姿をした魔王。魔王は、剣を抜いて怒りそのままに儂と戦え、この臆病者め、とジュナを挑発します。しかしジュナは剣を抜くことなく、殺したいなら殺すがいい、と言い放ち、強い意志で魔王の攻撃を退けます。

最後に現れたのは魔女の集団。最初は力で対抗したジュナでしたが、心を落ち着けると、魔女達を見据え、肉体の力ではなく心の力によって、魔女達を打ち砕きます。



ついにジュナは勇者の山の頂に立ちました。眼前に広がる広い世界。ジュナはここに幸せの国を作ろうと決意します。

そこに、懐かしいひとの歌声が聞こえてきます。「月の夜、夢の夜、聞こえるのは愛しい人の愛の歌...」ジュナには、自分を愛し、また自分も愛した娘、アユウが月へと還っていく姿が見えました。そして、遠ざかるアユウに、自分は黄金の雨を降らせて、幸せの国を作る、と誓います。


自らの荷袋から詰めてきた筈の黄金を取り出そうとするジュナ。しかし黄金はただの石に変わっていました。愕然となるジュナ。どうして、俺は確かに黄金を入れた筈なのに...。

ジュナは月の女神に救いを求めます。月の女神が現れます。女神は一言も発さず、優しくジュナを見つめるのみ。そこでジュナは悟ります。彼には分かったのです。黄金は形あるものではない、人々の心にある愛する心。それが真の黄金なのだと。ジュナはアユウから託された黄金の衣を手に取ります。この衣にはアユウの愛、父母の愛、多くの人の愛が宿っている。

ジュナは黄金の衣を天高く差し上げます。すると、衣から、天から、黄金の雨が降り出します。ジュナの心に呼応するかのように、激しく強く。多くの人に愛と幸せをもたらす、黄金の雨が...。





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