File130 宇多田VS倉木論 第三部〜それぞれの道B〜アメリカ戦略は成功したのか?


詳細な実態を知らない素人考えまるだしになるが、宇多田のアメリカデビューまでに至る動きを見ていると、どうにも「準備不足」「認識の甘さ」が否めない。その最たるものは、現地からの支援体制であろう。
外国にCDを売り込む場合、一番必要なのは現地とのコネクション。そのアーティストの作品を気に入って、その国で売っていけるよういろいろ働きかけてくれる業界有力者からの支援が何よりも重要ではないだろうか。
先日スウェーデンの音楽チャートで8位を記録したMizは、所属しているビクターがスウェーデンの音楽関係者と協力して「世界標準のボーカルの誕生を目指すプロジェクト」の下、起用された第一弾のアーティストであり、楽曲製作、プロモ撮影から販売に至る流れすべてにおいて、現地関係者とビクターとの密接な協力関係の下行われた。参照<http://www.sponichi.co.jp/entertainment/kiji/2004/02/04/01.html>
<http://www.nikkansports.com/ns/entertainment/p-et-tp0-040924-0006.html>
彼女の資質・魅力に感銘を受けた現地関係者が、まだデビュー前というのに積極的にラジオで曲をかけさせたり、ミニライブを開催させたり、バックストリートボーイズのプロデューサを起用したり、果ては北欧三国とイギリスで作品の発売を決定させたりするなど、販売戦略全般に関し惜しみなく力を注ぎこんだ。その結果が、8位というすばらしい数値とさらに他国でのデビューという明確な形として表れたといえよう。
一方宇多田はどうなのだろうか。
まず最初にして最大のつまずきは、「EZテレビ」の宇多田特集でも取材を受けていた、宇多田を見出し契約した人物、「アイルランド・デフ・ジャム」社のチェアマン、リオ・コーエンが、早々にして他社(ワーナー)に行ってしてしまったことにある。金銭的な条件や仕事内容、自己のステータスの向上と様々な理由によってすぐに仕事先を変えるというアメリカならではの事情が反映していたとはいえ、これはあまりにずさんとしかいいようがない。よって、世界進出に先駆け、「H U PROJECT」<http://www.sanspo.com/geino/top/gt200310/gt2003110101.html>なるものを立ち上げ、万全のサポート体制ぶりをアピールしていたが、根底からそれが覆ってしまうことに・・・。

第二に、いまだに父親のプロデュースから抜けられないということもある。これは、完全に私の私論であるが、天才的な資質を持っているにも関わらず、一向にアルバムアーティストとして宇多田が開花しないのには、プローデューサーたる父親の存在が大きく影響しているのではないだろうか。「ビックプロジェクト」などと銘打ちながら、このURLのインタビュー<http://www.bounce.com/interview/article.php/1545>を見るとわかるように、製作人との連携がちっとも取れていないことは明らか。実質お互い別作業でやっていただけ。確かに音楽は過程ではなく出来や売上が求められるものなので、それさえちゃんとしていれば、どうのような形で作ろうとかまわないところがある。しかし、この文面を見るだけで、そもそもの打ち合わせがきちんとできていたのか、ちゃんとした計画を立てていたのか、現地関係者の協力が得られていたのか、などと疑問を感じてしまう。こういった文面は、得てして美談として後付されやすい。証拠とかはないものの、実際には「さんざんダメだしをくらってノイローゼ気味になった」という話もあるぐらい。どうも密室作業的な感を否めないのだ。その結果が、あのぺらぺらで安っぽい編曲なのだろうか・・・。
音楽性の変化を考えるに、露骨にアメリカ陣営の魂胆があったのだと思うが、ここのところでもっと父親として、プロデューサーとして自分たちの明確な意見を持ち・伝え・意見を戦わしてほしかったように思う。中途半端な作品になってしまい、アメリカはおろか日本での売上低迷を招いてしまったのは、日本側陣営の責任だろう。

・各メディア戦略

「EZテレビ」の特集でもやっていたが、アメリカは日本とは違い「タイアップ」ではなく、地元のラジオ局やクラブハウスで取り上げられたりするのがヒットへの定石というように報道されていた。そう考えると、地方のラジオ局やクラブを熱心に周り、英語力を駆使したプロモーションを展開したことは肯定的な要素と捉えることができよう。だが、これは事実の一端を示しているだけ。確かにラジオやクラブから人気がでて・・・という話はあるが、現実には全国区のテレビ番組に取り上げられてからというのが殆ど(この特集は、個人的に失墜にあえぐ宇多田救済のために会社とテレビ局が協力して作ったような気がせんでもない)。だからこのことだけを取り上げて成功の如く扱うのは、間違い。ただ、後にCNNの音楽番組に出演を果たしたので、ようやく販売戦略が実を結んだといえよう。それがビルボート新人チャート5位、総合160位の順位に繋がったと思う。でもこの順位での売上は、6000〜8000枚程度ということらしい。
この順位をどう捉えるかに関しても、多くの意見があると思うが、よく健闘したのではないだろうか。まあ向こうの売れ方は日本とは違い、最初少なくて後に売上が伸びていくケースも多いので、これからが楽しみではあるが。ただし厳しい言い方になるけれど、現時点では「アメリカの壁を越えることはかなわなかった」というべきだろう。

・総評

出だしは多くの点で問題があったが、ようやくそこでのつまづきから回復し、販売戦略の成果がでているのではないだろうか。ただし、効果的な販売戦略は、それと一体化の関係にある音楽や本人の外見を無視して成立することはありえない。今ようやく成果が出ているといったものの、プロモ戦略や音楽作成の過程を見る限りにおいて、現時点で明るい未来を望むのは難しいように思う。ただ、非難ばかりしていても埒があかないので、最後に今後の戦略に関する意見を以下に記す。

アメリカでの活動を今後も行うのであれば、

@アメリカ音楽界で強力なパイプ役になってくれる業界関係者を見つけ、引き入れる
A音楽製作に関し、現地の人間に頼らず、今までのように日本人中心にするか、そうでなくても、宇多田の資質を最大限に引き出すことのできるものへと変える
Bお色気路線に傾倒したビジュアル戦略を直ちに止め、アーティスト性を重視した戦略に切り替える
Cデジタルポップ路線をやめ、従来の音楽性の延長上のものにする
D宇多田の父親をプロデューサーからはずす


などだろうか。
依然として日本の女性アーティストのトップを走る宇多田の行く末は、音楽シーン全体に大きな影響を与える。故に好き嫌い関係なく彼女には本当にがんばってほしく思う。現に彼女と浜崎とここ5年以上の音楽シーンを引っ張ってきた両名の失墜は、女性音楽シーンを盛り下げてしまっている。果たして・・・。

次回はGIZAアルバム詳細分析〜竹井詩織里編を行います。それと次回以降は新譜分析や今年の音楽シーンの総評の準備に入りますので、「倉木編」はしばらく行うことはありません。ご了承下さい。





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