File104 宇多田VS倉木論J


コンセプトアルバムにおいて、表現主題と並び作品を考える上で最も重要なものは1曲目であると考えている。優れたコンセプトアルバムはすべて1曲目が優れており、そこにおいて表現主題が何であるか、また、作品世界の状況説明や人間関係などを提示し、優れたメロディーや歌唱や詞によって作られた作品世界に聞き手を引きずり込む。極論すればそこで決まってしまうといっても言い過ぎではないだろう。よく「はじめが肝心」といわれる。どの作品でもそのことはいえるのだろうけど、コンセプトアルバムはさらにその要素が強い。前回示した作品をもって解説していこう。
ピンクフロイドの「狂気」の1曲目はインストロメンタルの「Speak To Me」〜「生命の息吹」から構成される曲である。他者との関係性があって初めて自分の存在が規定され、自分の生を実感として感じ取ることができる。しかし、その他者との関係性こそが、人を人として成り立たせていると同時に、人を苦しめている〜人の狂気を生み出す要因でもあろう。友情といい愛情といい、それ故に人は苦しみ、時にとんでもない行動や事態をもたらす。そのことが1曲目で見事にしめされている。
ドリームシアターの作品では、「異世界ならびに異世界におけるもう一人の自分の存在」「そこで経験した身を焦がすような恋愛」に気づきそうになる予兆が、1曲目「Regression」、2曲目「Overture」〜「Strang DEJA VU」によって示される。
クイーンズライクの作品では、1曲目「Remember Now」、2曲目「ANARCHYーX」、3曲目を一塊として、作品世界の部隊設定や登場人物の説明、そしてドクターXによる恐怖の革命の始まりが高らかに宣言される。

倉木の「FAIRY TALE」ではどうだろうか。
1曲目のタイトルはアルバムタイトルと同様「FAIRY TALE」。但し、副題として「my last teenage wish 」とつけられている。10代最後の思いをつづったということが明確に示される。

ここから先は、前回引用させた頂いたちゃぶー様の評論「倉木麻衣の研究〜A Study In Mai-K」の文面の引用を織り交ぜ、参考にしつつ、説明していく。
「FAIRY TALE」の冒頭で、聞き手に対し世界観の説明がなされる。二人してかぼちゃの馬車にのり、愛を始めとしたいろんな感情を抱えつつも、ミステリアスな時間をすごしていく。トンネルを越えて二人の進む先はネバーランドだ。ネバーランドは、有名なおとぎ話の主人公である「ピーターパン」が住む世界で、こどもが永遠におとなになることのない世界だそうだ。この「トンネルの向こうにはあの懐かしいネバーランド」の部分は、川端康成の代表作「雪国」の有名な出だし部分〜「国境のトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」〜を想起させる。ギターのバッキングを中心に構成された、比較的抑え目でかつ適度なリズム感を有する秀逸なイントロと合わせ、この出だしの部分で完全に今作の世界へと引きずり込まれ、作品世界に対する期待が嫌でも高められたといえよう。正直かなり驚いた。
話を本筋に戻す。この部分の後に、この曲ならびに、今作全体で倉木が最もいいたかったことではと推測している「夢を捨てるのが大人ならば なりたくはない」が示される。
前述ネバーランドの言葉もあり、一件単なるエゴ、単なる現実逃避と捉えることができよう。
人は大人になるにつれ、現実と自分の理想や夢との間に明確な線引きを行い、理想や夢を捨てるないしはそれを現実に妥協させることによって大人になっていく。それはある意味厳しい現実であろう。しかし、ここであえて倉木は厳しい現実に対し、抵抗し、「安易に夢を捨ててはいけない」「安易に現状に妥協してはいけない」と訴えかける。それは虚しい抵抗かもしれない。だけど、小さい頃から歌を歌うことに憧れ、その夢を、自身の能力のみならず、数多くの苦労や努力をもって成し遂げてきた倉木だからこそ、説得力を有しているといるといえるだろう。単なる現実逃避でないことは、「思い出の向こうには そう新しいfuture land」「時が経つほどに 現実を知っても 儚い夢をいだいていたい」という詞が物語っている。単なる夢想主義ではなく、現実認識ができているのだ。
倉木は自分の抱いていた夢を果たし、アーティストになったのはいいが、その代償として、普通に生きる人には体験しようもない厳しい大人社会の現実をきっと数多く見せつけられたことと思う。しかし、そういった現実を前に妥協したり、逃げたりするのではなく、「行こう fairy tale エメラルドの時空を越えて 忘れかけた世界へ」というように、時に自分の原点に立ち戻ることでそれを乗り越えて行こう、ということを示しているのではないだろうか。このアルバムを通していいたいことが、この1曲に見事に集約されているといえよう。コンセプトアルバムのお手本のような1曲目である。個人的に徳永作曲曲の中でも最高傑作のひとつではないだろうか。この曲なしにこのアルバムを語ることなど不可能であろう。

次回からは2曲目以降について分析していく。






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