File98 倉木VS宇多田論G


新曲を出すたびに売上が下がってくる最中、再び倉木が躍進する原動力となった「Stand Up」と並び、本作を考える上で重要な曲と考えているのが、「Always」「冷たい海」「The Rose」の3曲。本作の多様性と厚みを増す上で効果を挙げている。
まず「Always」。洋楽的王道ロックを感じさせるミディアムテンポの曲。さりとてさすがは大野愛果作曲曲。明るさと繊細さ、後半コーラス部分以降の壮大さなどの要素を満たしたこの曲は、アルバム曲としてよりも、ライブ用の曲としてライブを盛り上げる上で重要な役割を果たしたといえよう。いいライブアーティストの必須条件に、「ライブ映えする曲」をどれだけ持つことができるかがあるが、「Always」はまさにそれに値するといえよう。

次は「冷たい海」。個人的には現時点における倉木の数多くの曲たちの中で、最も優れた曲の1つであると考えている。
曲調は「少年犯罪」をテーマにしているだけにひたすら重い。だが、作曲家大野愛果の真骨頂といえる繊細さと幻想的とまでいえる美しさを存分に感じ取ることができる。秀逸なコーラスワーク、音の変動が激しい変則的なサビメロ、オルゴールの音色のようなシンセの打ち込み、倉木の囁くような歌唱とが曲を存分に盛り上げているといえるだろう。
この曲は洋楽的要素を持った曲といわれてはいるが、個人的に「和の要素」「雅」といったものを突き詰めた「R&Bバラード」曲と位置づけている。歌謡曲的R&Bといってもいいだろう。恐らく倉木&大野以外に、この雰囲気を出せるアーティストというのは、世に存在しえないように思う。繊細さを中心に作られていくその構築美の独特さと、あまりの美しさに引き込まれてやまない。

最後に「The Rose」。ピアノ以外の楽器の演奏がなく、倉木の歌唱魅力をだしているといえるだろう。曲はアーティストを成長させる重要な要素のひとつであるが、この曲は倉木の持つ潜在的な能力や魅力を引き出したのではないだろうか。

この3曲と「Stand up」は、今作の完成度の高さと、今作ならびに後々の倉木を語る上ではずすことの出来ない多様さをもたらしたキー曲といっていいだろう。

ここまでの文面だと、ちょうちん記事の如く今作に対し絶賛していると思われるでしょうが、結論から言うとそうではない。今作は倉木麻衣の「アーティストとしてのさらなる多様化をもたらした」や「今作以降の方向性を見せた」といった、倉木麻衣というアーティストを考える上で絶対にはずすことができない重要な作品であることには間違いない。しかし、作品に対する総合的な評価は、といわれると少し微妙なところがある。今まであげてきた美点や良点が率直に作品の完成度を挙げる上で効果を果たしているとは思えないからだ。

まず今作の問題として、当時の倉木の年齢・容貌・歌唱技術と曲との間にやや違和感を感じることがある。大人色を感じさせるAOR路線の提示やより多様な洋楽的な曲の展開は、倉木を一アーティストとして著しく成長させた。しかし、その成長をもたらした音楽性の変化が、本人の意志や本人の技量の自然な成長に基づいていないのでは、と私は考えているからだ。やはりこれには、「宇多田のパクリ」発言を受けて、音楽性を宇多田路線から遠ざけようとしたGIZA側の意図があったからだろう。「Come on! Come on!」では低音部分の声がお世辞にも出し切れているとはいえない。「The Rose」では、倉木の魅力は存分に感じるものの、この曲の持つメロディーの魅力を倉木の歌唱が完璧に引き出しているかというと、疑問がある。高音部分での声が出し切れていない・中盤部分のやや力みを感じる歌唱などがその要因と考えている。
歌唱や曲以外の問題もある。その最たるものは「Reach for the sky GOMI REMIX」の存在だ。名曲「冷たい海と、さしたる印象があるわけではないものの、終盤を締めくくる曲としていい味を出している「いつかはあの空に」との間にこのふにゃけたリミックス曲を入れる必要性が、今作を考える上であったのかと疑問を感じずにはいられない。せっかくシングル曲を始めとして、後々の倉木を語る上ではずすことのできない重要曲やアルバムならではの良曲が作り出した流れを崩しているように思えてならない。このリミックスを入れるぐらいなら、「Simply wonderful」を入れたり、カップリングの名曲らを入れたりした方がずっと良かったように思う。非常に残念だ。

あえて苦言を呈したし、1stに比べ完成度ではやや落ちるところがあると考えるが、今作での様々な音楽的試みと、それによってもたらされた倉木の成長とが、大傑作「FAIRY TALE」を生み出す原動力となったことは間違いない。それ以降の音楽性の流れを構築していく上でも重要な役割を果たしたともいえよう。その点においては、この作品のもつ重要性や意義は、いくら強調してもしすぎということはないだろう。

次回からは3rdアルバムの分析を始めます。






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