File97 倉木VS宇多田論F


「Distance」 VS 「Perfect Crime」

今回から両名2ndアルバムについて記していく。

・総評
日本の女性アーティストR&Bの形成、並びに進化発展に多大な貢献をした両アーティスト。特に宇多田登場以降、R&Bらしきものをやる追随者の存在が多々でてきたのだが・・・。そんなアーティストらを尻目に2001年に両者が出したアルバムに共通していたのは、「R&B」の要素を減退させ、変わりに音楽的な多様性を提示したことである。売上1位・2位のである両名の作風の変化は、音楽史的に見て「R&Bブームの終焉」を高らかに宣言したものであろう。以前の論稿でも記しているが、2001年〜2002年にかけR&Bブームが急速に衰退し、「癒し系路線」の台頭並びに、MINMIやDOUBLEなどらによって「R&B」の細分化・さらなる本格化が進行する。この両作はこういった動きを促す起爆剤になったことは間違いないと考える。以下各々の作品について述べていく。

・宇多田ヒカル
今作で顕著に見られるのは、R&B的要素がかなり薄れ、マライヤやセリーヌ・デュオンのような「総合的な洋楽ポップス」の要素が強くなったことである。「Can You Keep〜」「Wait&See」「ドラマ」「Addicted〜」「For You」らに見られるように、リズム感やグルーブといったものよりも、歌唱やサウンドにおける強弱の表現や歌メロの流麗さ、ロック的志向などがより全面的に打ち出されている。砕けた言い方をすると、R&Bを中心とした路線からジャンル不問の王道的路線へと一層の進化を遂げた、といえよう。
それを可能にしたのは、本場にも決して引けをとらない秀逸な楽曲製作環境と、宇多田の有する圧倒的なセンス。シングル曲を中心とした各曲のテンションの高さと勢いという点に関しては、他のどのアーティストをおいても及ぶものではないだろう。
しかし、私は女性音楽史的観点において、今作は一つの頂点を極めた作品だと考え賞賛しているが、個人的評価においては必ずしもそうではない。わがままで贅沢な指摘ではあるものの、今作の最大の問題は、アルバムオリジナル曲が絶対的な完成度と魅力とを持つシングル曲に比べ、どうしても聞きお取りしてしまうこと。つまりはアルバムならではの違った魅力というものが、他アーティストらに比べ発見しにくいことである。有力曲1曲1曲をとっていくと、まぎれもなく邦楽史上最高レベル、しかし、全体を通して聞かせる魅力に関しては、その限りではない。

・倉木麻衣

前作では、宇多田やMISIAに端を発したR&B的音楽とは一線を画した柔軟性と多様性と、そしてR&Bらしからぬ繊細さと哀愁とを見せ付けてくれた。その倉木の2ndアルバムだが、最たる特徴として1stより「R&B色」が薄まり、より多様性を提示したといえるのではないだろうか。

ハードロック色を顕著に感じる1曲目「PERFECT CRIME」を始め、AOR的要素が前作よりでている「Start in my life」「Reach for the sky」、リズム重視で「R&B」的雰囲気を有しながらも、1stとは違いかなり明るい雰囲気を持つ「Brand New Day」、デジタルポップの要素を感じる「Come on!Come on!」、アメリカンロックの影響を感じさせる「Stand Up」・・・。実にバラエティに富んでいる。
一方、全体的にR&B的要素が減ったといえるのだが、その数少ないR&B曲「What are you waiting for」「think about」の2曲に関しては、1stアルバムでのそれに比べると、R&Bとしての純度をより高めている。本作を考える上で、全体的な多様化と一部の曲のR&Bへの傾倒の2つの要素が、作品を構築しているように考える。1stアルバムでの「日本的歌謡曲にR&Bを加味した作風」とは、完全に一線を画している。個人的に、宇多田と同様に、R&Bだけにこだわらず、作品を構成する曲が洋楽路線に傾倒したととらえている。ただし、洋楽路線への傾倒という共通項があるものの、両者の間には大きな違いがある。宇多田はアルバムを構成する各曲並びにアルバム全体が、「ジャンル区分を明確にすることができない王道的洋楽路線」を感じるのに対し、倉木は、作品を構成する各曲が上記にあるように、R&Bとか、アメリカンロックとか、デジタルポップとかというように、個々の曲がそれぞれに洋楽的色合いを強めていると感じるからだ。つまりは多様さにおいて、倉木と宇多田の間には歴然とした違いがある、ということである。

今作においてだけではなく、今後の活動においても重要な曲となった「Always」「冷たい海」「The Rose」を中心として、このアルバム全体について次回にさらに詳細に述べていく。






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