File83 今巨匠について語るときが来たA


世の中には優れたアーティストは多々いる。宇多田や矢井田、ガーネットクロウの中村らは間違いなくその中の一人。ただ、個人的な好き嫌いということはあることはもちろんあるし、自分が今まで聞いてきた範囲での判断になるが、両巨匠に出会って以降両巨匠に比することのできる存在をいまだに見つけてはいない。
安定感のある曲や聞きやすい曲を作るのであれば、両巨匠より上のものはいるだろう。しかし、だからといって巨匠より上の評価を与えることが出来るかというと、そうではない。
美しさ、幻想性といったもの及び、それらによって構築される曲のスケール、それは多くのアーティストらと全く別物であると認識しているからだ。

それを生じさせる要素として

@音楽性の幅広さ。
Aその幅広さに決して振り回されず、おぼれず、完全に自分のものとしている。
B編曲の秀逸さ、サウンド構築能力の巧みさ。
C業界や市場の論理とは全く無縁で、ストイックなまでに自己の作品世界を追求している。

があるのではと分析する。

@の音楽性の幅広さ
両巨匠の曲を聞いていて一番に感じることは、とにかく音楽性の幅が広いということ。菅野は、北欧やアジアやインド、中近東などの民族音楽・日本の民謡・ジャズ・ブルース・クラシック・ポップス・ロック・テクノ・ヒップホップ・プログレッシブロックといった要素を曲から感じ取ることができる。一方新居も、ポップス・ロック・プログレッシブロック・雅楽・テクノ・北欧やアジアの民族音楽を感じ取ることができる。これだけの音楽を曲に込めることが出来るだけでも驚嘆に値するが、さらに凄いことは、それら音楽の要素を非常に高いレベルで提示しているだけではなく、Aに記したように完全に自分の曲としてものにし、昇華していることにある。単に技量自慢ということで、曲の多様性を示せるものはそれなりにいる。しかし、両巨匠のように、多様性を見せながらも決して散漫にならず、高いレベルを伴い且つ、曲を一聴しただけで「菅野の曲だ」「新居の曲だ」とすぐにわかるような個性を見せてくれるものは、殆どいないといっていいだろう(あえてあげるとしたら梶浦由記くらい)。彼女らの魅力は、優れた音楽的才能が可能とする、曲の多様性に裏付けられた拡散性ではなく、実は、どんな曲を作ろうと「巨匠の曲は巨匠の曲」とわかる一点集中の個性にある。つまりは、各々曲が有する美しさや幻想性、スケールの大きさといったものなのだ。もはやそれはファンタジーとか芸術といっていいほどのものであろう。
それをなしえる上で重要な要素の一つであり、他のアーティストらを全く寄せ付けないものは、B編曲の秀逸さである。
それは、曲聞いていていて感じ取ることのできる、歌メロ及び歌い手の歌唱、楽器の演奏やその他打ち込みサウンドらの一体感だ。
ガーネットクロウやDAI、宇多田の編曲を担当している河野圭など優れた編曲能力を有するアーティストも決して少なくない。しかし、違うのだ。感覚的な表現になって恐縮なのだが、曲の魅力を編曲を通して余すことなく出しつくすくかのような、これ以外の編曲は全く考えられないかのような、まさに完璧といえる編曲。楽器の一音一音を始め、様々なところで潜んでいる効果音一つに至るまで、全くもって無駄や隙というものがない。最初からそうなることが決まっていたかのようであり、過剰さも物足りなさもそこには存在しないのだ。あるのは筆舌に尽くしがたい構築美のみ。
作曲能力では両巨匠に比する存在はそれなりにいるものの、作編曲両方あわせた能力という観点では存在しない、と私は考えている。この差こそが、巨匠を巨匠たらしめる絶対的な要素であるといえよう。ガーネットクロウやDAIを始め、このレベルに達していると私が判断するアーティストは残念ながらいない。
最後のCは、今までに示したことでもうわかっていただけると思う。巨匠たちにあるのは、自己の音楽世界の追求。得た富も名声も、あくまでその過程において生じただけのものに過ぎない。巨匠らが求めているのは、まさに贅沢極まりないが、「自分の満足する音楽をつくることのできる製作環境と生活に困らないお金」だけであろう。新居の公式サイトで、「日常に潜む異世界・絵画・映画・愛のあるSF・愛すべきものたち」を音楽にしたいものとしてあげていることを見ても、そのことがうかがい知れる。
そしてそのこだわりの強さは、市場論理や世俗の流行といったもの、音楽業界の醜さといったものすべてを排している。追随するものなき高い能力と確固たる信念を持つもののみが到達することの出来る、至上の境地といっていいだろう。

ここで、両巨匠のお勧め作品を記しておく。

・菅野よう子 
アルバム:「マクロスプラスサウンドトラック」 坂本真綾「イージリスニング」 「カウボーイビバップVitaminless」収録の「The Real Folk Blues」
シングル:KOKIA「愛の輪廻」

・新居昭乃 
アルバム:「空の森」「RGB」 「ロードス島戦記サウンドトラック」収録の「風のファンタジア」「Adesso e Fortuna〜炎と永遠〜」 
シングル:種とも子「Love song」 「昼の月」

但し、作品的にとことんアーティスティックであり癖があるので、お聞きになる際はその点にご注意ください。

菅野は、今年になって「GET9」をシングルとして出し、今月25日には「攻殻機動隊」のサウンドトラックも発表する。昨年全く活動がなかった新居は、既に新作のレコーディングを行っているようで、恐らく今年中に発表されることだろう。両巨匠の能力が惜しみなく注ぎ込まれているであろうこれら作品によって、如何様の音楽世界を私に見せ付けてくれるのか非常に楽しみである。この両名の作品は上半期の音楽シーンを考える上で、最重要の作品となることは間違いない。  





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