他事争論

File157 2005年上半期音楽シーン総評の総評2


今回は、今年に入ってからの新人アーティストの傾向及び、今後の展望などを含めた「対策」について記していく。

先回も記したが、既にシーンの流れは、20世紀デビューのアーティストではなく、21世紀にデビューした新世代のアーティストが築いている。その最前線にいるのは、平原、大塚、BoAの3アーティストであろう。しかし、今年の上半期に顕在化した「ハードな音楽と王道バラードとの拮抗構造」に関しては、この3アーティストではなく、主に今年にデビューした新人たちによって成立している。まず、この構造を構成している2つのジャンルの音楽について記していく。

・ハードな音楽〜ハードロック、ラウドロック
この手の音楽に関しては、アブリルやエヴァネッセンスの活躍を契機に、2003年以降の日本でかなり隆盛した。しかし、あくまでそれは、洋楽CDのヒット傾向の話であり、邦楽女性音楽シーンの流れ・人気とは殆どリンクしなかった。先回でも書いたが、この時期の日本で支持されたのは、20世紀の後半の音楽シーンを形成した宇多田、浜崎、倉木などの音楽であり、また、癒し系ブームの一環で平原や一青窈などの音楽であった。
だが、だからといって、2003〜2005年までの日本においてハードな音楽がシーンに全く存在しなかったかというと、そうではない。例えばOlivia、北出菜奈、奥田美和子、亜矢、陰陽座らがそうであろう。一方、浜崎あゆみや柴田淳などのアーティストらが、自身の音楽の多様性や挑戦心を示す一つの方法論としてこの手の曲をアルバムに盛り込むこともあった。但し、あくまでこれら動きは業界の主たる動きとはならず、これら音楽をメインとするアーティストはそれぞれ地味な活動を展開するに留まっていた。
この動きに変化が生じたのは2004年の後半。その最大の功労者の一人は「木村カエラ」であろう。ガレージロックからの影響をふんだんに感じさせる歪みやノリのあるギターサウンドを中心とした、ヘビーで懐古的な音作り。ある意味渋いといってもいい音楽なのだが、モデルとしての人気やキャラの面白さと上手くかみ合った彼女自身の自己表現力の上手さや、何も考えず気楽に聞ける音楽性が支持に繋がったのだろう。そしてもう一つは椎名林檎率いる「東京事変」。オルタナティブ系の激情サウンドであり、本来であればヒットを見込めるような音楽ではないが、ソロ時代から培ってきた人気やカリスマ性、積極的なメディア展開などにより商業的な成功をおさめたのは記憶に新しい。
しかし、この一連の動きの決定打となったのは、木村と同じソニー所属アーティストであり、「ガンダムSEED」タイアップで人気の出たHIGH and MIGHTY COLOR・高橋瞳、そして路上シンガーのYUIらの登場ではないだろうか。特にSEEDタイアップの2組は上半期シングル売上50以内に入る売上を見せた。上位30位までに女性アーティストが10組も入らない状況を見るに、大健闘と言っていい。
これらアーティストの成功の要因として、タイアップの恩恵やアーティスト人気だけでは説明できない、ハード思考を求める世の流れがあるのではないだろうか。


・王道バラード路線
王道バラード路線に関しては、2002年の癒し系ブームの延長のような感じで今も根強い人気がある。昨年の売上を見ても、日本人は「バラード曲」を大変好んでいる傾向があると言える。
今、このジャンルを引っ張っているのは、平原綾香と一青窈、中島美嘉らであろう。
おととしから昨年に関しては、「世界の中心で、愛をさけぶ」や「冬のソナタ」などの影響を受け、恋愛を主軸とした歌がよく歌われていたが、その風潮にも少しずつ変化がでているようだ。その変化の最たるものは、「脱恋愛路線」と「より芸術性を高めた音楽」の追求であろう。
この動きの形成に関しては、平原と一青窈の両名をはずしてはならない。両名の詞に共通するのは、男女の恋愛に留まらない「普遍的な愛」や「人々の感情」を綴ったことにある。さらに、管弦楽器をふんだんに用いた壮大な構成、民族音楽の影響を受けた構成などは、他にはない厳粛で上品な雰囲気を携えている。このことは、今年登場した同種ジャンルの新人たちに確実に継承されている。その中でも特に興味深いのは、ソニー所属の牧伊織、大山百合香、東芝の大竹佑季、愛名、ワーナーのナナムジカら。
彼女らに共通するのは、完全自作ではないこと。作詞・作曲・編曲などに関し、有力な人材を惜しみなく登用し、徹底した分業製作のもと曲を作り出している。彼女らの実年齢にそぐわない深みや魅力があるのは、これらことがあるからだろう。これは後に「対策」のところでも述べるが、総じて作詞作曲を自ら手がけがちな傾向がここ数年比較的強かったこの手のジャンルにおいて、新たな動きと考えられるのではないだろうか。

対策〜ハードな音楽編
今年に入ってから顕著に人気が出てきたこの手の音楽。個人的にこの手の音楽は大好きでもあるので、何とかこの人気を維持してもらえたらと思っているのだが・・・。
洋楽路線に傾倒している者だと「アブリル的」なものとなり、和の要素や激情表現を重視しているものだと「COCCOや椎名林檎的」なものになってしまうのが、大きな問題のように思う。影響を受けるのが悪いというわけではないのだが、個性に欠ける面は否めないし、同種の音楽であるのなら本家を聞いている方がいいという結論になってしまう。今、リアルタイムで動いている段階なので今後の動きが全く予想できないのだが、その他大勢から頭一つ飛び出すためには、この両面に縛られない独自性を打ち出していく必要があるだろう。例えば、ゴシックメタルやスラッシュメタルの要素を取り入れたハイカラや陰陽座、ぬるさを打ち出した木村カエラの曲は、その答えの一つのように思う。


対策〜王道バラード編
深遠な歌詞、歌い手の優れた歌唱力・声質、優れた管弦楽器の挿入、民族音楽やクラシック音楽の要素の盛り込み・・・。この手の音楽に関しては、殆どの点でやり尽くされた感がある。さらに問題なのは、既に優れた実力を持つアーティストでひしめいてる激戦区であること。そのような状況において、頭一歩出るためにどうしたらいいのだろうか。なかなか難しいものがあるが、一つは曲を構成する各要素の錬度を高める、というのがあるだろう。ただ、歌唱技術と曲の出来に関しては、もう限界まで来ているので、ここでポイントとなるのは、「詞」と「編曲」ではないだろうか。
最近は経験とか年齢とか実力とか関係なく、歌い手に詞を書かせたり、曲を作らせたり、プロデュースに関わらせたりと、いわゆる「創作活動」をさせているのが多い。だが、詞・曲・編曲・歌唱が一体となっての感情表現が醍醐味たるこの手の曲において、このことが曲の完成度を下げている理由になっている。故に、今後は作詞・作曲・編曲・歌唱全部において圧倒的なものを見せつける天才でもない限り、各々分野に関し、その分野の専門家に製作を依頼するほうがいいように思う。実際、東芝の愛名は詞を専門の作詞家が担当しているし、同じく東芝の大竹佑季に関しては、歌以外のすべてをプロデューサーお抱えの専門家が担当している。また、この手の音楽の必須ともいうべき「ストリングアレンジ」に関し、柴咲コウの曲で前嶋康明がストリングアレンジを手がけたように、編曲者と別の人材を起用するのもいいだろう。ここでものをいうのは組織力と人脈、及びアーティスト同士の交流。いかに優れた人材を自陣営に引き込むかが、曲の完成度だけでなく商戦的な意味合いにおいても重要になるような気がする。井上陽水の後押しを得ている一青窈や、久石譲も絶賛の平原綾香、人気と組織力のある柴咲コウなどは、この点で一歩飛びぬけていると言える。
また、もう一つ方法論を記すと、「民族音楽」や「クラシック音楽」とは違うジャンルの音楽を盛り込むのもあろう。ミュージカルの要素を取り入れた植村花菜などは、新たな方向性を感じていい。

両ジャンル共にいえるのは、成功の鍵としては、先人が築いていったいい点を受け継ぎつつ、如何に新たな要素を出していくことにあろう。それと、アーティストの資質・個性を見極め、それに即した曲作りを行うことも。無理にアーティスト性をひねり出したり、規制の枠にはめたりしようとすると、シーンそのものを衰退させる結果になりかねない。
何はともあれ、いいアーティスト、いい音楽がシーンで溢れかえってくれれば、言うことはないのだが・・・。






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