File156 2005年上半期音楽シーン総評の総評1


予定を変えて今回からは2005年上半期の音楽シーンを振り返っていく。論考の流れとしては、「大雑把な総評」「新人アーティストの傾向と対策」「下半期予想」「GIZA編」「バツ丸私論編」の予定。例年より力が入っているのは、それだけ上半期に感じるところがあったからか・・・。


2005年上半期の音楽シーンを振り返ってみて一番思うことを一言で示すと、「女性音楽シーンがついに動き出した・動きを見せた」になるだろう。その動きは、大きく分けると、「世代交代」「ハードな音楽の台頭〜バラード系との拮抗・2極化状況」になる。

・世代交代
このサイトで何度も述べてきたが、2002年の「癒し系」の流行以降、女性音楽シーンにこれといった動きはなく衰退していく。5年間続いた女性アーティスト優位の時代2003年に終焉したのは、その象徴とも取れる出来事であった。それ以降も、今日に至るまで男性アーティスト優位のチャート状況は変わっていない。
衰退期〜ある意味膠着とも言えるこの状況を象徴していたのは、宇多田ヒカル・浜崎あゆみ・倉木麻衣・矢井田瞳・モーニング娘。らといった「衰退していく20世紀デビュー組」と、BoA・平原・大塚ら「21世紀デビュー組」の新世代アーティストとのせめぎ合い。だが、景気の低迷や男性アーティストの躍進、宇多田・浜崎の2大アーティストの失墜という状況が、この言葉に抱きがちな「群雄割拠」「刺激のしあい」という肯定的なものではなく、「シーンの沈滞化〜足の引っ張り合い」と言うべきネガティブなものを見せていたように思う。特に20世紀組に関してはこのことが言えるだろう。とはいえ、新世代アーティストに少しずつシェアを削られながらも、2004年まではベストアルバムのリリースなど過去の遺産の食い潰しもあってか、何とか20世紀組アーティストが新世代アーティストを辛うじて抑えていた感があった。だが、その動きもついに終わりとなる。
今年に入ってから目立った動きや存在感を見せたのは、積極的なリリースやメディアを駆使し、今年も人気者としての支持を得た大塚愛。大型タイアップに支えられた魅力ある楽曲を優れた歌唱で見せつけた平原綾香。ベストアルバム発売と全国ツアー、新曲リリースと縦横無尽の働きを見せたBoA。CM出演、モデル、番組の司会といったマルチな活躍を見せた木村カエラらである。20世紀組と21世紀組との間で繰り広げられた、シーソーゲームと言うべきシェアのしのぎあいも、ついに21世紀組優位に傾き始めたと言える。つまりは、少しずつ進んでいた世代交代がついに一定の帰結を見せた、ということである。既に業界の主軸アーティストは、宇多田でも浜崎でもなく、平原、BoA、大塚の3大アーティストになったと言っても差し支えないだろう。2005年上半期を振り返る上で、まずこのことは忘れてはならない。


・ハードな音楽の台頭〜バラード系との拮抗
2005年の上半期を振り返る上でもう一つ絶対に忘れてはならないのが、「ハードな音楽の台頭」であろう。
アメリカでは2003年以降エヴァネッセンス、アブリル、アシュリー・シンプソン、アナ・ジョンソンら、ロック、ハードロック、ラウドロックをやるアーティストが一つのブームを作った。だが日本ではあくまで売上の面での影響に留まり、日本の音楽シーンに対してはそれほど影響を与えなかった。一部のマイナー実力派アーティストがやるか、人気アーティストが自身の音楽の多様性を示す一貫としてやるだけの状況になっていたといえる。実際、シングルセールストップ30位以内(日経エンターテイメント2004年12月号より)に入った、浜崎、ドリカム、柴咲、平原、一青窈ら女性アーティストの曲は「王道バラード」ばかりでハードなものはない。あえて上げるなら、大塚愛の「さくらんぼ」があるが、この解釈には少し無理があるだろう。
しかし、昨年後半から今年にかけてその風潮に変化が見られ、今年になってからその変化が加速する。ハードな音楽〜ハードロック、ラウドロックといった音楽の影響を受けた曲のチャートで目にすることが一気に増えたのである。
上半期のチャートをにぎわした、または話題になっている・なりつつあるアーティストの曲を振り返ると、

・木村カエラ 「リルラリルハ」
・HIGH and MIGHTY COLOR 「プライド」「OVER」
・高橋瞳 「僕たちの行方」
・YUI 「feel my soul」
・中ノ森BAND 「ラズベリーパイ」「Whatever」
・奥田美和子 「雨と夢のあとに」


らとそれなりの数がある。特に、木村・ハイカラ・高橋、北出などを擁すソニー所属のアーティストの攻勢が目立つ。さらに、この動きを加速させそうな動きがある。
先日マリオン・レイブンというハードロック、ラウドロック主軸の音楽をやるアーティストが日本デビューを遂げた。既にアメリカではかなりの支持を得ており、さらに、アルバム製作において、モトリー・クルーのニッキー・シックス、カーディガンズのピーター・スヴェンソン、エヴァークリアーのアート・アレキサスなどが参加していることから、日本でも話題になるのは必死。また、以前記したように、「トゥルーコーリング」の主題歌を歌っているFull Blown Roseの動きもある。再びアメリカは「女性ハードロック・ラウドロックブーム」の兆しを見せているのだ。

上半期の音楽シーンに関しては、ハードな音楽の台頭ほどではないが、それと並行・対峙するかのように「王道バラード」、しかも格調高いそれをやるアーティストや曲が目立っているのも、大きな特徴と言えるだろう。
平原綾香、中島美嘉、柴咲コウ、一青窈といった既に地位を築いているアーティストだけでなく、ソニーの牧伊織・大山 百合香、ワーナーのナナムジカ、東芝の大竹佑季・愛名、ビクターの荘野ジュリ、キングレコードの植村花菜など、これまた多くのアーティストが登場している。ここでも、ソニーのアーティストが多いのが興味深いところ。この手のジャンルにおいて業界の盟主である東芝アーティストととのしのぎ合いになっていて面白い。両ジャンルにおいてソニーが主導権を握っているのを見るに、ここ数年シーンに対しそれほど影響を及ぼさなかった「ソニー」の「逆襲」がついに始まったと言えるだろう。
(尚、この件に関しては、次回総評の続き「新人アーティストの傾向と対策」で述べる予定。)


・業界は依然として衰退
ただ、久しぶりに動きらしい動きを見せている女性音楽シーンであるが、売上面を考えると現状はかなり厳しいものがある。チャートで元気さを見せているのは、オレンジレンジやDef Tech、ケツメイシといった男性アーティスト。女性アーティストに関しては、BENNIE KのコカコーラCMタイアップ曲が27万売れたのが「大きな記事」になるぐらいの状況で・・・。他に売上で健闘したのは、大塚・BoAといったエイベックス勢か・・・。既にオリコンベスト10入りのラインが初動2〜3万枚くらいになっているとはいえ、また、ミリオン連発の90年代の状況が異常とはいえ、寂しいことには違いない。

多くのサイトを見ていると、売れなくとも「個々にいい曲を出してもらえば」とか「自分にとっていい曲があれば」と考えておられる方が多い。そういった意見は「そのとおり」であるし、真理でもあろう。しかし、失礼を覚悟で言うと、個人的には納得がいかないところもあるし、矛盾を感じずにはいられないのである。
私は売れ筋アーティスト、お金を稼ぐアーティストの存在を絶対に軽視しない。例え音楽性が好きでなくても・・・。
どんなに「音楽は商品でなく芸術だ」とか「金だけでない」といきまいても、アーティストを発掘し、育て、売るには大金がかかる。お金があれば、「面白いけど売れるかどうかわからない」アーティストに対しても、冒険的な投資をしていけるし、売れ筋ではないけど優れた芸術性・思想性を秘めたアーティストも養っていける。荒削りではあるが、光るものがある新人を育てていける。お金があれば、たいていのことに関し優位に進めていけるのは、普遍の真理である。また、シーンを引っ張っていく有力アーティストがいれば、それを見た他者が影響を受けるなど音楽的な刺激を世や業界にもたらすし、しいては次世代のアーティストを生み出す精神的な土壌を作ることにも繋がる。宇多田を見てR&Bを志したとか、浜崎を見て歌手を目指したとか、COCCOの詞に影響を受けたとか・・・。そういう話は、雑誌での取材や各アーティストの公式サイトプロフィール欄を見ればいくらでも事例を見つけることが出来る。
今の女性音楽シーンにイマイチ満足していなかった理由として、売上減による資金不足によって、アーティストに対する投資や育成に関し、「失敗」を恐れるあまり「安全筋狙い」になってしまったからがあるだろう。そういった姿勢は状況の改善どころか、結局のところ「金太郎飴」的アーティストや均質的な曲を生み出し、業界の縮小化や衰退をさらに促進させただけなのだが・・・。
だから、業界を引っ張る&お金を稼ぐ売れ筋アーティストの存在は常に必要だと思っている。CDが売れない状況に満足している人や、自分の好きなアーティストが地道に活動しているからいいと思っている人、売れ筋アーティストがいなくてもいいと思っている人は、ややきつい言になるが、そういった考えが、下手をすると自分が好きなアーティストの活動の場を奪ってしまう可能性があることに気付いてほしく思う。
しかし、ここ数年感じていた閉塞感や停滞感も今年の上半期でだいぶ薄まったように思う。それはなかなか面白い新人が数多く登場したことにある。次回ではそのことについて述べていく。

・上半期総評のまとめ・顕著な傾向
1・ハードな音楽の台頭、及び王道バラードとのしのぎ合い
2・ソニーVS東芝の対立構造、及びソニーの逆襲
3・有望な新人が多数登場






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