竹井詩織里

竹井詩織里

 竹井詩織里 「second tune 〜世界 止めて〜」 2005・09・28 90点
1.世界 止めて     2.となり     3.君を知らない街へ
4.うたかた      5.Reflection      6.and it’s over      7.slow step
8.くちなし       9.new day       10.Lost In Paradise     11.つながり
12.パズル
      13.世界 止めて-piano instrumental ver.-
ジャンル区分J−pop ボサノヴァ ジャズ ピアノバラード
良い点・加点要素類稀な美声 進化した歌唱技術・表現力 心象・心理描写に長けた詞 新たな魅力の提示
減点要素・注意点竹井の歌唱力に依存気味で前作より質が低下した楽曲 インスト収録
失墜しまくっているGIZAにおいて、美メロ・美声・美貌とビーイングの正しき伝統を受け継いだ現時点で最後のアーティスト、竹井詩織里の2ndアルバム。GIZA「最後の良心」「最後の砦」と言われて久しいが、今回もそれに違わない実に優れたアルバムだと思う。

まず注目すべきは詞と作風。前作での、ボサノヴァサウンドを基調とした、「よく言えば聞きやすく・気持ちよく、悪く言えば優等生的でインパクトや面白みに欠ける(ように感じる)」、「イージーリスニング」的音楽を維持しつつも、音楽を構成する様々な要素において、そこからの恣意的な脱却を図っているのが作品全体を通して伺える。竹井自身が様々なところで語っているが、「より内面的な感情の表現」と「アーティストとしての枠を広げる」を果たそうとしているからであろう。
詞に関しては、言葉での説明は難しいが、感情表現や心象描写に関し、より人の内面の深いところや精神的な領域へと踏み込んでいるように思える。派手さはないが、奇をてらわない繊細且つ丁寧な描写は、かつて以上の現実味と説得力を帯びているのではないだろうか。無常に恋愛模様を綴った4曲目や、鬱屈した若者感情を表現した9曲目、泥沼の恋模様における様々な感情を丁寧に描いた5・10曲目などはその典型的なものであろう。詞の世界に引きずり込まれるのではなく、気付いたら自分の感情・心境と一体化していた、そんな感じがする詞である。地味さや丁寧さに埋もれがちであるが、単語一言で曲の特徴を見事に表した曲名も含め、彼女の言語センスの良さを感じてならない。
楽曲に関しても、カバーアルバムやカップリングでの実験を通して、わずか1年程度であるにも関わらず、民族音楽調の曲や退廃的さや前衛さのある曲やアップテンポ調で明るい曲があるなど、彼女が得意としているジャンルでは珍しい貪欲なまでの挑戦心を見せ付けている。

しかし、こういった前作からの変化が可能となったのには、ひとえに彼女の声質の魅力と歌唱技術の上手さとがあるからであろう。元来持ち合わせていた圧倒的な透明感や高音の伸びやかさに磨きがかかるだけでなく、さらに、中低音での伸びやかさや全音域での緩急強弱のつけ方などに飛躍的な成長を見て取れる。技術的な成長と類稀な美声といってもいい彼女の優れた声質とが、実に多彩な感情表現を可能とした。吐き出すかのような歌唱の9曲目、中低音が冴え渡る8・10曲目での歌唱は1stアルバムではおよそ聞かれなかったものであろう。様々な技量と魅力とに裏付けられた表現の上手さ、美しさは例えようもないほどにすばらしく、既に彼女がフェイバリットアーティストとしてあげている歌い手にさらに近づいたといっても良いだろう。

但し、非常に優れた作品ではあるが、最高レベルの評価が出来るかというと残念ながらそうはならない。深刻な問題とそれにより彼女の将来に不安を感じるからである。それは、

1・売るために積極的に収録したであろう大野・徳永曲を始め、全体的に曲の質が下がっていること=高森・後藤曲数の著しい減少
2・「蜜月」「君に恋してる」級の曲が殆どなかったこと
3・インスト曲を収録したこと


である。やはり特に深刻なのは1であろう。

諫山実生の「月のワルツ」の劣化版でサビ最後のメロディーがしょぼすぎる7曲目、単調なメロディーの9曲目、そしてシングル3曲をはじめABメロのショボさとサビの唐突さばかりが目立つ大野曲は、お世辞でも誉めることが出来ない。前作における高森・後藤曲よりも明らかに下である。少なくともこれら曲とインスト曲に代え、「your warmth」「追憶」「ボイス」といった曲を入れていたら確実に名盤入りしていただけに、殺意すら覚えるほどに腹が立つ。
それでも今作が良作になったのは、飛躍的に成長した竹井の超人的な声質と歌唱とがあったからだろう。結果オーライとはいえ、曲と歌のバランスが前作と比べるとかなり悪くなり、曲の質も下がりと内情はお寒いものがある・・・。「コナンタイアップ」「大野・徳永」曲と、なけなしのネームバリューに頼って彼女を売り出そうとしたのが、こうなってしまった大きな理由であろう。だが、歌い手との相性もへったくれもない浅はかで愚かな戦略・作品作りが上手くいくはずもない。竹井のマンパワーで水準レベルを何とか維持できても、更なる高みを目指すどころではなく、近い将来行き詰る可能性が非常に高いと考える。はっきり言おう、「今作程度の楽曲レベルであるのなら、大野曲及び徳永曲は竹井には必要ない。邪魔なだけだと。」。竹井の歌唱の凄さだけが際立ちすぎる点は、歌い手の声質の良さとメロディーの魅力、その両方の相乗効果により良さを提示していくビーイングの音楽に明らかに反している。倉木5thアルバムでも3rdアルバム以降の愛内でもそうだが、ビーイングの伝統に反する、「歌い手の歌唱が突出した」GIZA作品にいいものが少ないことから、現時点では今後に対する不安材料しか抱けない。
楽曲提供者や社の愚かな戦略による悪しき影響を避けるためにも、今後はとりあえず高森・後藤両名の曲を主軸にしつつも、竹井には自作の道を進んでいただきたい。既に竹井の歌唱のレベルについていける作曲家がGIZA内にいなくなってきている現状を見るに、急務であろう。それが出来なければ、竹井に将来はないかもしれない。他社から引き抜かれでもしない限り・・・。

何だかんだいったが、多くの方に聞いていただきたいと思える良作ではあると思う。業界最高最強と言うに相応しい美声を存分に堪能していただきたい。(2005/09/29)



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