| 荘野ジュリ 「36度5分」 | 2004・12・03 | 84点 | |
| ビクターが送り出した有力新人、荘野ジュリの1stアルバム。作曲はしないものの、ビクターが力を入れて売り出すにたる、優れた個性と実力とを有したアーティストであることがよくわかる力作である。 曲のタイプは非常に明確で、1・3・5・6・8のようなネオアコ的要素を盛り込んだダークなバラード曲と、2・4・7のようなフレンチポップやジャズの要素をふんだんに取り入れたおしゃれなアップテンポ曲に大別することが出来る。ということで、露骨に曲種の幅は狭いのだが、それらがほぼ交互に展開されるという配置により、いい具合に作品に緊張感を与えているのは、製作陣のささやかなアイデア勝ちであろう。特徴的なのが、曲種関係なく作品全体を貫く独特の雰囲気。ふわふわとしながらも、時にひんやりとした荒涼さで聞き手をねちねちと突付き、言いようのない感覚を抱かせる。そう、タイトルが示すように、それは「微熱」の感覚であろう。ゆったりとしたメロディーと相乗効果をあげている彼女の気だるい歌唱とややかすれた声質。Azukiにも通ずる自嘲的でどこか投げやりな心理や若い女性の日常的な恋愛模様を身近な言葉で、しかも無常につづっている詞。シンプルでありながらもメロディーや歌唱を引き立てることに念頭が置かれた、中村仁のいぶし銀ともいうべき作編曲、などが、この不思議な雰囲気をつくり上げているといえるのではないだろうか。同じ荒涼さでも、ガーネットクロウが夜の海や絶壁、冬の早朝といった自然なものを連想させるのに対し、この荘野のそれは、「廃墟」とか、だだっ広いコンクリの広場でたたずんでいるとかと、無機質さを連想させるのが実に面白い。しかし、そうであっても微熱のような妙な温もりを随所に感じさせるのは彼女の大きな魅力であり、聞き手を引きずり込む原動力である。 「アリジゴク」「ツギハギ」「カゲロウ」「負け犬の遠吠え」と彼女の人となりの面白さを象徴する曲名も秀逸。 今作は、詞・歌唱・曲・編曲などすべてがシンプルで、派手さも壮大さも全くない。だが、それぞれにおいていい仕事振りを見せていることと、荘野の詩人・歌い手としての優れた個性とが、シンプルさが故の魅力を存分に放出しているといえるだろう。収録曲も破綻がなく、全部を通して聞くこともできるし、実に手堅い作りである。唯一の難点は、同一人物が作編曲すべてを手がけたことと、荘野が歌いこなせる曲種の少なさとがもたらした曲のパターン化。今作はそのことが世界観の確立や一点集中の魅力を生み出す要因になったが、このままで行くと先が辛くなってくるような気がする。(2005/01/23) | |||