エデン
 新居昭乃 「エデン」 2004・09・08 93点
前作発表から2年以上経って発表された待望のアルバム「エデン」。通常のアーティストなら、このタイトルに思わず「くっせー」といってしまうだろう。無論、巨匠はそうはならない。構想3年。9・11テロ、アフガン空爆、イラク・アメリカ戦争と世界で生じた凄惨な出来事からの影響を強く感じとれる13の曲をもって、聞き手を深遠で幻想的な世界へと引きずり込む。
ブリティッシュロックや初期ZEPにも通ずるような、荒涼としたフォークロックの要素を感じさせる「New World」「Ronndabout〜」。アイスクリームを一人で食べる行為を通して、孤独な人間のあまりに悲しい心象風景を秀逸なアコギサウンドとフロイドにも通ずるシンセ音像で描き出した「バニラ」。巨匠ならではの幻想的な愛の世界を描き出した「夜気」。凡人には全く理解できない、あまりに深い詞を気だるい歌唱と美しいピアノ演奏で表現した「Tune」。完璧なカフェサウンドで、聞いていて究極の癒しを堪能できる「虹色の惑星」。9・11テロ事件以降の世界情勢に関し驚異のプログレサウンドで描き出した「バンジー」「N・Y」。などなど、そのすべてがあまりに美しすぎる。 巨匠と編曲担当の保刈とが生み出す音世界の美しさを前に、もはや言葉はでない。アコギとピアノ中心の音像ではあるものの、過去の作品ならびに、今年の菅野作品すら上回っている。いや、今までレビューしてきた作品の中でも最強クラスといってもいい。他者との比較や業界での位置づけを行うことになんら意味を感じない孤高の存在たる巨匠の所以を、今作でも存分に見せ付けている。
幻想的で深遠な曲の雰囲気に反し、曲から伝わってくる思想には、こういった音楽にありがちな「現実逃避」「傷のなめあい」「安易な癒し」といったものは微塵もない。すべてを包み込むような音の中に、COCCOにも通ずる狂気・暴力性、AZUKIにも通ずる死生観・退廃観が潜んでいる。それは、恐ろしく立体的なサウンドに乗って、聞き手に恐怖感や痛みすら抱かせる。筵に座らされているように。「バニラ」「バンジー」はその典型であろう。
唯一の難点は、3曲目がイマイチだったことと中盤にミドルテンポの曲が集まっていて少しだれてしまったこと。後者の要素に関しどこまで受け入れられるかが今作の最大のポイントであろう。それと、今作はどちかというとヒーリングミュージック的要素が多いのだが、個人的に聞き手を窒息させるようなプログレ曲や民族音楽的曲にこそ、巨匠の真髄があると思っているので、このことは少し残念であった。これら点がなければ、間違いなく名盤行きだったのだが。だがそんなこと関係なしに、巷に溢れ返っているメジャー音楽とは全くもって相容れない、別次元の音楽・至高の音楽の存在があるということを、改めて認識させてくれた傑作。(2004/09/10)



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